美術館訪問と受刑者

2026年4月2日から13日にかけて、フランス全国で弁護士がストライキを行います。治安維持強化を掲げ、強権的な刑事司法の改革を推し進めようとするDarmanin司法大臣への抗議のストライキです。とりわけ、被告人と被害者が合意をした場合に裁判を経ることなく被告人に刑罰を科すことができるという改革に大きな反対の声があがっています。

すでにこのような手続きはフランスでも一定の事件に導入されていますが、今回は重大犯罪に対しても拡大するということで、被告人、被害者の権利と真実追及に対して重大な問題があると弁護士たちは抗議しています。

パリ弁護士会の会長は、問題は司法予算が足りず、裁判官の人数が増えないために訴訟遅延という問題が起きているにもかかわらず、その問題を解決することなく、当事者の同意で裁判自体をしないことにして時間を稼ぐのは許されないと主張しています。

これから数日間は、弁護士会から裁判への出席拒否の呼びかけが行われるとともに、弁護士会自身も国選弁護人の指名などを行わないという形でのストライキを行う予定です。

強権的な司法大臣のやり方はこれまでも様々な場面で抗議を受けてきました。

そのうちの一つが、受刑者の社会復帰や更生を支えるための文化活動・そのための外出です。

文化活動のための外出については、先日こんな記事がありました。

2026年3月13日ナンテール刑務所の受刑者が、「監督下での外出」であり文化見学としてルーヴル美術館を訪れる途中、脱走したというニュースです[i]。その後の17日にはダカール空港で飛行機から降りる際に逮捕され、今後フランスに身柄が送り返されたとのことです。

ルーヴル美術館
ルーヴル美術館

2025年11月14日には、レンヌで同じく、文化見学としてプラネタリウムを訪れていた受刑者が脱走するという事件もありました[ii]

「監督下の外出」とは、受刑者の社会復帰を目指して行われるもので、刑事訴訟法典723‐3条で定められているものです。

外出期間は刑期から差し引かれるものとなっています。その目的は、受刑者の「職業的あるいは社会的復帰の準備」「家族とのつながりを保持」「その存在が必要となる義務の履行」等とされています。

外出が認められる条件は、主に刑期の長さや刑期終了までの時点などにより決まります。最大で10日間。但し、外出中の交通費や宿泊費は自己負担です。また、外出中に一定の人に会わないことなどの外出条件が付されることもあります。

本件は刑事訴訟法典D143-4条に基づく外出だったようです。

これは、刑期が5年以下あるいは5年を超えるがその半分を経過しているときに、一日超えない期間、文化的活動あるいはスポーツのために外出が認められるというものです。

今回は、電車を使ってルーヴル美術館を訪れる途中の事件でした。

こうした受刑者に対する配慮は受刑者を甘やかしているのではないか等たびたび批判の対象となってきました。

とりわけDarmanin司法大臣がこうした受刑者の権利行使にブレーキをかけようとしてきました。

2025年2月19日に、司法大臣は刑務行刑総局に対し、「娯楽的な、あるは挑発的な活動」を刑務所で行うことを禁止する通達を出しました。刑事訴訟法典には、受刑者の社会復帰等を目的として、行刑当局が刑務所内で様々な娯楽や文化活動を提供することとされています。これに対して、司法官組合などの複数の団体が、司法大臣の通達は法に違反し、権限を逸脱しているとして、越権訴訟(取消訴訟)を提起しました。

コンセイユデタは、2025年5月19日に、刑務所内での一定の活動が「娯楽的」要素があるからといって禁止することは違法であると判断し、その部分に関して司法大臣の通達を取り消しました[iii]

しかし、刑務所の現場では、受刑者の様々な活動が阻害されているようです。

とりわけルーヴル美術館訪問の際の脱走後、行刑当局は、受刑者の外出などをすべて中止するよう内部に指示を出したとのことです。

しかし、本来外出許可は司法裁判所が決定することで、行政がこれを無視することはできません。司法官組合や国際刑務所監視機関Observatoire international des prisons などは、行政の対応は三権分立を侵害するものであり、「行刑のトランプ主義」と呼んで激しく批判しています[iv]

2025年のレンヌの逃亡の際にも、司法大臣はあらゆる文化的活動のための外出を中断しました。

これを受けて、刑の執行を担当する複数の裁判官やアーティストたちが、ル・モンド紙に論考を寄せました。

そこでは、社会がどれだけ文明的かということは、社会が受刑者をどのように扱うかで測られるとしたドストエフスキー言葉が引用されています。そして、次のように訴えています。

受刑者にとっても社会にとっても社会復帰と更生が重要であることは間違いありませんが、そのために芸術や文化が果たせる役割があるという指摘は大変興味深いものと考えられます。


[i] https://www.ladepeche.fr/2026/03/14/un-detenu-en-visite-au-musee-du-louvre-sevade-dans-les-transports-le-directeur-avait-emis-un-avis-defavorable-a-cette-sortie-13272018.php (2026年3月31日最終閲覧)

[ii] https://www.franceinfo.fr/societe/prisons/rennes-un-detenu-profite-d-une-sortie-culturelle-pour-s-evader_7626167.html (2026年3月31日最終閲覧)

[iii] https://www.conseil-etat.fr/fr/arianeweb/CE/decision/2025-05-19/502367 (2026年4月2日最終閲覧)

[iv] https://oip.org/communique/les-permissions-de-sortir-trumpisme-penitentiaire-saison-2-episode-26/#:~:text=Les%20permissions%20de%20sortir%20%E2%80%93%20Trumpisme,26%20%E2%80%93%20Observatoire%20International%20des%20Prisons

(2026年3月31日最終閲覧)

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