AIから著作者の権利を守るために-フランスの新しい法律の試み

フランスで現在新しいAIに関するルールが準備されています。

生成AIが学習に使ったデータに関し、著作権者が自分の著作物が学習に使われたという一定の立証に成功すれば、AI開発者側が、その著作物を学習に使っていないという立証責任を負うという、立証責任の転換をかかるというものです。

現在準備されている新しい条文は以下のもので、知的財産法典L.331-4-1条を次のように改正するものです。

・法改正が提案された背景

 この条文は、上院の議員から提出されたものです。

 

リュクサンブール公園のジョルジュ・サンド像

リュクサンブール公園のジョルジュ・サンド像

それは主に次の二つの点にまとめられます。

① AI により二重の「略奪」の危険が生じていること

  • → 著作権者等は、いつ、どのように自分の作品が使われたかを知ることができないこと。これらの情報を有しているのはAIの提供者だけである。この不透明性は、AIの透明性の原則に違反するものである。透明性が欠如することで、権利の行使が不可能となり、裁判官は判断することができなくなり、規律が働かなくなり、民主主義が機能不全に陥る。
  • → AIモデルを学習させるための学習データは、無償提供が当然のように考えられているが、そもそもこの学習データとされる作品なしには、AIモデルそのものは存在しない。AIから生み出される収益は権利者に還元されるのは当然である。

② 他方、許可なく無償で学習データとして使われる作品は、AIにモデルが出力した「瓜二つの作品」との競争にさらされていること。

上院は、DSM指令(フランス知的財産法典L122-5-3 III)に基づく権利者のオプトアウトの権利が実効的ではないこと、また、この権利を実効的にするために、AI法はAI法の実務規範や欧州AIオフィスが提供するテンプレートに基づいた「十分に詳細な要約」を予定したが、2025年8月2日の適用開始において、実際の文書がAI法を骨抜きにするような内容になっており、著作権者等の権利の保護が実現していないということを問題視しています。

EU法において権利者保護が十分でない以上、フランス国内の訴訟法において、権利者保護の規定を置くべきだとして、この法案が準備されました。

上院は、この法案の目的は次の二つにあると説明しています。

① 立証責任を転換することにより、権利の実効性を確保すること

立証責任が転換することで、AI提供者側が、訴訟で主張されている作品をAI学習に使っていないことを立証しなければならなくなります。AI提供者側で当該作品が利用されることが「推定」されることになるわけですが、この推定は、通常想定される状況に基づき行われるとされます。例えば、あるコンテンツやあるクリエイターの作風やスタイルと似たコンテンツを生成した場合、そこには、このクリエイター等の作品を使ったと常識的に考えられます。」

例えば「ジブリ風」の画像が生成されるような場合に、そこでジブリの作品が学習に使われているのではないかという推定が働くことになります。

そして、提供者の側で、ジブリの作品を使っていないということを反証する責任を負うことになります。

さらに、上院は、AIが保護された著作物又は対象物の一部若しくは構成要素を再現した場合、その分析を行った場合、又は保護対象と生成コンテンツとの間に類似性が認められる場合について、同様であると考えています。

作品が利用されていることの蓋然性は、特定の生成AIの具体的な動作原理や、そのデータ供給経路(サプライチェーン)に関する技術的鑑定又は学術論文によっても裏付けられ得るとも指摘されています。

以上より、上院は、AIシステムの開発若しくはデプロイメント(運用展開)に関連する事実又は徴表、あるいは当該システムによって生成された結果に含まれる事実又は徴表のうち、多くのものが、保護されたコンテンツの利用を相当程度蓋然的なものと認めさせる根拠となり得るとしています。

② 倫理的かつ競争的なマーケットの構築

こうした利用の推定は予防的な効果を有するもので、AIにかかわる事業者が違法な行為を行うことを抑止したり、あるいは合法的な行動を行うことを促進するなどの効果があると考えられています。

推定は訴訟上の手段の一つにすぎませんが、これがあることで、ルールの順守を促進し、技術のイノベーション支援と文化の保護を両立することができると考えられています。

上院は、この法案はコンセイユデタの諮問にかけました。

コンセイユデタ
コンセイユデタ

コンセイユデタは、2026年3月19日他の法規範との整合性を目的とする、いくつかの用語の修正を求めたほかは、法案の内容はEU法にも、フランス人権宣言にも違反しないと判断しました。

国内法との適合性については、コンセイユデタは、上院の法案提出理由にもあるとおり、権利者とAI提供者との間での情報格差を問題としました。そして、国内法においては、本法案は、訴訟での武器対等の原則を実現することで、人権宣言17条(所有権の保護)に基づく著作権及び著作隣接権を保護しようとするものであるとしました。また、コンセイユデタは、この推定規定はAIモデルの提供者だけでなく、AIシステムの提供者にも適用されるべきだと指摘しています。

コンセイユデタは、この推定は事実の推定に過ぎず権利の推定ではなく、AI提供者側が、権利者の権利を侵害したことまでを推定するものではないということを重視します。つまり、利用の推定が働いた後に、それが権利者の権利を法律上侵害したと言えるかどうかは、また別途裁判官が判断する事項となります。また、AI提供者側は推定を覆すことも可能です。

ここから、法案は、公正かつ公平な裁判の保証を含む防御権尊重の原則の保障を謳う人権宣言16条(権利が保障されず、権力が分立されない社会は憲法をもたない)を侵害するものではないとしました。

コンセイユデタ(法案に対する検討が行われる部屋)
コンセイユデタ
(法案に対する検討が行われる部屋)

なお、コンセイユデタは、この条項の適用範囲としては、

・フランス国内裁判所において、

・フランス国内法により保障される著作権(財産権)に対する侵害

に対して適用されるとしています。

なお、この侵害は、フランス国内市場にAIモデルあるいはAIシステムの提供された場合、フランスにおいてシステムにより生成されたアウトプットが利用された場合に生じたものとされており、システムの提供者やモデル開発の場所を問わないとしています。

時的限界としては、法案にもあるとおり、法律施行後に提起された訴えにのみ推定規定は適用されるとしています。

この法案はフランスの文化に関する93の組織の支持を受け、2026年4月8日に上院で満場一致で可決されました。

6月2日に下院の文化委員会により採択され、同月11日に下院の本会議で審議が始まります。

国民議会議場
国民議会議場

この法案は多くの支持を得ています。

例えば、6月1日のLe Point誌は、「生成AIの巨人を前に、誰がフランスのクリエーションを守るのか?」という記事を掲載しました。

法案に対しては、フランスの生成AI事業者であるMistral などが反対の激しいロビイング活動を行い、政府も法案採択に消極的な姿勢を示しています。そのような中で、この記事は、いかに無償かつ無許可で文化的コンテンツを利用することがおかしいかということを主張し、EUレベルでの時間のかかるルール改正を待つことなく、フランスが他の国に先駆けて、文化を守るための法案の早い採択を求めています。

そして、次のように訴えかけています。

高級ブランド業界において、デザイナーの創作物を無断かつ無償で利用する事業者は存在しない。ミシュラン星付きシェフが農家や畜産業者から代金を支払うことなく食材を調達することもなければ、建設会社が供給業者からコンクリートを盗むこともない。

そうではない。彼らは、自らが利用する原材料の生産者や創作者を選定し、交渉を行い、その対価を支払っているのである。また、自らが従うべきフランスの法規制を遵守している。そして、そのことは、多くの企業が世界的な競争力を有する企業へと成長することを何ら妨げてはいない。

では、なぜAI企業だけが、このような基本的なルールから免れることが許されるのであろうか。

フランスが他国に先駆けた新しい民事訴訟のルールを作るのか注目されます。

フランス法とアートと文化をもっと見る

今すぐ購読し、続きを読んで、すべてのアーカイブにアクセスしましょう。

続きを読む