モナリザ

受刑者と美術館: 文化とアートの重要性

2026年5月5日、コンセイユデタが、2026年3月13日付司法大臣の、受刑者の文化的及びスポーツ活動のための外出許可停止命令の適法性に重大な疑いがあるとして、執行停止を認めました(Conseil d’Etat, juge des référés, 5 mai 2026, 514387)。

受刑者の文化的・スポーツ活動に関する一時外出については、以前このブログで紹介しました

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司法大臣の命令は、2025年11月14日にレンヌで、同年12月28日にパリで、2026年3月13日にパリで、文化的活動のためにグループで一時外出許可を得て外出していた受刑者が脱走したことを受けて出されたものでした。が、3月13日の夜に出していた決定に対するものです。

この日、刑務行政総局長directeur général de l’administration pénitentiaire (フランス法務省の刑務行政部門のトップ)が、地域間刑務局長らに対し、「社会復帰(職業上、治療上又は宿泊施設探索に関するもの)という直接かつ明白な目的と関連しないすべての外出許可を停止することが決定された」と通知する大臣の命令をメール送信しました。この命令では、「文化的、スポーツ的その他のすべての外出許可は、個別か集団的かを問わず停止される」とされ、ただし選挙権行使のために認められた外出許可のみが例外とされました。

そこで、国際刑務所監視機関フランス支部(la section française de l’Observatoire international des prisons, OIP-SF)、全国CGT刑務所更生保護職組合連合(l’union nationale des syndicats CGT SRIP, CGT insertion probation)、全国刑務行政職員組合(le syndicat national de l’ensemble des personnels de l’administration pénitentiaire, SNEPAP-FSU)、司法官組合 (le syndicat de la magistrature)、人権連盟(la Ligue des droits de l’Homme)、フランス弁護士組合(le syndicat des avocats de France)及び被拘禁者の権利擁護のための弁護士協会(l’association des avocats pour la défense des droits des détenus)という複数の団体が、受刑者の権利や、受刑者の更生という社会の一般利益を侵害するとして、命令の執行停止を求めて提訴しました。

訴えの利益が認められる範囲が広いのもフランス行政訴訟の特徴ですし、裁判官の組合も行政の命令の執行停止を求めるという点において日本と大きく異なります。

申立人らが使ったのは、執行停止のレフェレというもので、①緊急性があり、②行政処分の適法性に対して重大な疑いが存在するときに、当該行政処分の執行が本案の判決まで停止されるというものです(行政訴訟法典L.521-1条)。

コンセイユデタは次のように判断をして、申立人らの主張に理由があるとしました。

- 緊急性について

コンセイユデタは次の事実を重視し、執行停止を行う緊急性があることを認めました。

  • 大臣の命令は、事実上2026年の全ての文化的・スポーツ目的の外出を不可能にするものであること。外出には、そのための準備や、予算化や、外部の協力が必要になることから、現時点で外出が禁止されると、それは将来にも効果が及ぶものであり、また、指示自体には期限の定めがないこと

- 決定の適法性について

 コンセイユデタは、文化やスポーツ活動のための外出は、刑事訴訟法典の定め(とりわけD.143-4条)に基づくものであり、そうであるにもかかわらず、司法大臣が自らの権限で、原則として文化やスポーツ活動のための外出を排除することは、決定の適法性について重大な疑いを生じせしめるものである。

執行停止のレフェレの要件の二つがこのようにして認められることから、コンセイユデタは、申立人らは、本訴についての判断が出されるまでの間、原則として、かつ一般的な方法で、文化やスポーツ活動のための外出の準備や実施を妨害すること大臣の命令の執行停止を求める権利を有すると判断しました。

さらに、コンセイユデタは国に対し、国際刑務所監視機関フランス支部に、行政訴訟法典L.761-1条に基づき、弁護士費用や裁判費用の一部として3000ユーロを支払うことを命じました。

この件は、日本法と比べると興味深い点が何点もあります。申立てをすることができる人(団体)の範囲が広いこと、裁判官も受刑者の権利のために申立人に名前を連ねていること、そもそも、法律上の要件を満たした場合、受刑者に美術館等に行くための集団外出が認められているという点において興味深いと言えます。

法律上外出の権利が認められていなければ、そもそもその権利の実現を求めて裁判所に訴えることはできません。また、申立権者の範囲が狭ければ、迅速に専門的な裁判を起こすことも難しいと思われます。

未だに日本での裁判数が少ないのは、日本人の法意識の問題だとか、弁護士数の問題だとか言われることが少なくありません。

しかし、こうしたケースで見ると、そもそもフランスでは当然のように行われる裁判が、日本では、法律上認められる権利が少なく、さらに行政訴訟が広く開かれていないため、権利を主張するための手段すらないという、法制度上の問題にももっと目が向けられるべきだと常々思います。

その上で、仮に法制度上日本でも裁判が可能になったとしても、何を個人や社会の権利や利益と考えるかによっても当然結論も左右されるでしょう。フランスでは、美術館に行くという文化活動が、受刑者の更生にとって重要であり、これは受刑者自身にとってだけでなく、社会の利益であるとも認められている点が、非常に興味深く、重要だと考えます。

自由の女神

(修復されて色が鮮やかになりました。)


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